散歩の途中

散歩の途中で観察記録、その後少し調べて書くノート

横浜水道みちを歩く その1 青山水源池と三井から上大島まで

日本の近代水道発祥の地といわれる横浜の水道は明治20年(1887)に給水が開始された。その水道の水源は相模川にあり、津久井郡三井(みい)村(現在の相模原市緑区三井)に取水口を設け、横浜の野毛山浄水場横浜市西区)まで約44kmの間水道管を敷設した。工事にあたって、イギリスから持ち込まれた水道管や、さまざまな工事用の資材を運搬するには道路も整備されておらず、トラックのような大型機械もなかった時代、その手段として水道管を敷設するルートを切り拓くと、上にレールを敷き、トロッコを使ってそれらを運んだということである。その後、送水管の通っているところを「水道みち」と呼ぶようになって現代に至っている。
三井の取水口は効率が悪かったことなどでさほど長くは使用されずに廃止され、現在は使用されていない。三井の取水口に代って道志川の青山に取入口が設けられ、城山隧道という水道用の長いトンネルを通すように改良されている。また青山の取入口もさらに上流に設けた鮑子(あびこ)取水口に代ったが、鮑子~城山隧道経由の水道路は現在でも使用されている。
参考までに現在の横浜市で使用される水道の水源は、相模川(相模湖、沼本、城山、相模大堰、寒川)のほかに道志川、宮ケ瀬湖、酒匂川など数も場所も増えている。

さて今回の散歩の動機だが、最近横浜市水道局によって三井から野毛山までの水道みちの26か所に「水道みち「トロッコ」の歴史」という看板(案内板)が設けられているのを知ったこと。横浜水道の水道みちを歩いて26か所の看板をすべて記録してみようという、わりと安易なものではある。水道みちが遊歩道になっているところもあるし、看板を探しながら歩くのも面白いかも、ということで。
看板がどこにあるかは横浜市水道局のホームページに資料がある。(PDF)

http://www.city.yokohama.lg.jp/suidou/kyoku/torikumi/suidou-pr/pdf/kanban-gaiyozu.pdf

ほかにもブログなどに情報を提供されているものがあったのでそれらを参考にさせていただいた。
まずは三井から野毛山までだ。それと道志川の青山水源地にも寄ってみる、これが最初のパート。追加で、看板の立っていない水道みちがあって、川井浄水場から鶴ヶ峰を経て西谷浄水場へ。これを含めて「横浜水道みちを歩く」としてみる。

その1はまず青山水源地探訪から。ここに横浜市水道局の施設、青山水源事務所がある。正確にはここは水源地でもないのでタイトルの「青山水源地」は間違いなのだが、青山水源「事務所」と書くとなんか違うことをしに行ったようなのであえて「水源地」とさせてもらった。この周辺を歩いたあと一旦バスで移動し、三井から上大島までを歩く。「トロッコ」の歴史看板を探しながら。

◆青山水源地へ

まず青山水源地へ向かうため、橋本駅(JR、京王)から神奈中バスで三ヶ木(みかげ)へ。
三ヶ木バスターミナルで

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三ヶ木から青山へ。本当は鮑子取水口まで行きたかったのだが、鮑子を含めて歩き回ると少々距離が長い。三ヶ木からバスを乗り継ぐ方法もあったが2時間に1本程度しか便がなく、時間があわずに断念。
青山水源地へは三ヶ木交差点を国道412号を厚木・半原方向へ。

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中国道413号(道志みち)分岐点の青山交差点手前

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ここに右に折れて下っていく細い道があるのでここをすすみ、あとは道なりにずっと下り坂をおりていくと事務所のまえに到着する。
青山水源事務所の前

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明治20年(1887)に三井の取水口から取水が開始されたが、明治31年(1898)には拡張工事が開始されてここに新たな取水口が作られたということなので、ここもかなりの歴史があるところだ。
中に入ることはできなかったので外から様子を見るだけだったが、事務所の建物や庭などは何ていうか昭和初期のお屋敷風、それがいい感じに寂びれて味わいがあるじゃないですか。あとから調べてみたら、青山沈殿池の建造物は国の登録文化財に認定されているそうで、ここは映画の撮影などにも使われたことがあるとか。なんかわかる感じ。ドラマやCM撮影の隠れた穴場として使えるんじゃないかな、なんちゃって。
沈殿池

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入口の先は浄水場のようだが、沈殿池ということだ。歴史は古いがいまでも現役で使用されている。この少し上流にある鮑子取水口で取られた水が青山隧道というトンネルでここに運ばれてここに一旦貯められる。不純物を沈殿させるためにたくさんの池が用意されている。
水源神社の鳥居が少しみえる。

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沈殿池の向こうに鳥居がちょっと見えた。水源神社ということだ。水が枯れませんように、事故がありませんように、願うことはたくさんあるでしょうし、神様常駐。

沈殿池のフェンスに沿って道志川下流方向へ

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道の途中には湧水があったり。とても水に縁のある場所だ。フェンスが途切れたあたりに城山隧道の入口がある。
城山隧道入口

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トンネルの正面へまわって撮っていないのでやや見にくいが「城山隧道」の文字がみえる。青山沈殿池を通過した水がここを通って城山ダムの方へ送られる。トンネルの長さは4500mくらいあるそうで、造られた当時は日本でも有数の長いトンネルだったらしい。城山という山の下深くを貫いているのが国土地理院の地図をみるとわかる。

近くを流れている道志川へまわってみた。
道志川の河原

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釣りをしている人、水遊びをしている人など意外にもたくさんの人がいた。水は澄んでいて水量も豊富、それでいてこのあたり流れが急ではないから釣りや水遊びには最適。
同じ場所から下流側

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対岸の集落へ向かうための古い橋が架けられている。弁天橋。
弁天橋の下流側

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ここにも何かを採っている人の姿が。何がとれるんだろう、ちょっと気になる。
下流側へすすむと三太旅館というのがある。何でも昭和20年代に一世を風靡した児童文学の「三太物語」というのがあって、その原作の発祥の地、つまり原作者がここで執筆をした場所、ということらしい。テレビ番組や映画にもなったということだが、さすがにそこまで古いことは私のメモリに入っていない。
さらに下流へすすむと橋がある。道のうえに橋が架かっている。

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橋の上側も道路、この場所から行くと道路がループ状になっていて、一周まわって橋の上に出ることができる。
ぐるりと回って橋の上へ

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この橋は水道橋という。橋の上側の道路は元々、現在の国道412号線の旧道。写真奥側の三ヶ木方面から手前側に下ってきてこの橋を渡り、さらに先で旧道志橋を渡り、対岸の沼本方面へとぬけていた。おそらく青山水源地や城山隧道の建設にあたって、新たな道路を整備したものがこの橋の下をくぐることになったのではと考えられる。橋もそのときに下を掘ったためにできたのかもしれない。
水道橋の上から下の道路を見下ろす

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欄干部分から下の道路をのぞいたのだが、ちとわかりにくい。
この道路を手前反対側へ戻って旧道志橋の橋脚を見に行く。
その前に「新」道志橋を下から見上げる

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現在の国道412号線にかかる道志橋。昭和39年(1964)に架けられた橋。
現在の道志橋(上)と旧橋の橋脚跡

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新しい橋と古い橋の架けられている方向がほとんど直角で直感的には同じ橋とは思いづらいのだが、新旧の同じ橋である。古い地図を見ると旧道のたどっているルートがよくわかる。(リンク先からはブラウザの戻るボタンで戻ってください。)

昭和8年ごろと現在の道志橋付近の地図>

今昔マップ on the web:時系列地形図閲覧サイト|埼玉大学教育学部 谷謙二(人文地理学研究室)


新道志橋の上から別の日に撮った旧道志橋の橋脚

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上の国道から見るとこんな感じ。
再び戻って水道橋付近から道志川上流側

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道志橋を過ぎたあたりで道志川相模川津久井湖)に合流するのでこのあたりが道志川の一番下流側の端っこということになる。
再度水道橋を渡り、坂をのぼって国道へ出て三ヶ木のバスターミナルへ向かう。国道はうるさいので実際は一本裏の旧道を歩いたが。

◆三井(みい)から上大島へ

三ヶ木のバスターミナルで橋本駅方面行バスに乗り、太井(おおい)へ向かう。太井交差点間近の「クラブ前」というバス停で降りるはずが、バスの車内放送で「太井」の名前が不意に出てきたもので2つ手前の「太井」バス停(交差点には近くない)で下車してしまった。大した距離でもないので2停留所分国道をあるく。
太井の交差点を折れ、坂を下って三井大橋に出る。
三井(みい)大橋

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車道用と歩道用の2つの橋が架けられている。交通量はさほど多くはないのだが車道用に歩道をつける余裕がなかったためか、何だか豪勢な装備だ。
もったいないので橋を渡り終わる前にもう1枚

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橋の途中からみた津久井湖

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これから歩くはずの道が湖の向こう側の山の中腹あたりを通っているのが見えた。
三井大橋を渡ると坂を上がり、右にカーブしたあたり、右側に神社がみえる最初の分岐(タクシー会社車庫のところ)を左折して坂を下っていくと湖畔に出る。

湖畔の手前で

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ここの湖畔、ボート乗り場の手前に「トロッコ」の歴史看板(1)三井がある。

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看板にも書かれているがこの場所は取水口から1kmの場所、実際に取水口があったのはさらに湖の上側1キロのところ、現在沼本ダムがある場所の少し下側。その場所には当時の遺構が残っているようなのだが、開放されているわけでもなく、到達するのは「いろいろあって困難」という理由で行っていない。
「トロッコ」の歴史看板(1)は難なく見つかった。残るは(26)まであと25個。
湖畔にきた道を引き返し、坂を上がって先ほど左折した場所へ戻る。
今回はここから津久井湖の北側を通る県道沿いに歩き、城山ダム付近に出るコースとした。このルートは水道みちには設定されていないが、現在使用されている沼本ダムから谷ケ原浄水場への送水路に近い。青山沈殿池から城山隧道経由の送水路は湖の南側、城山直下を通っているが、そちらは以前歩いたことがある。
ここからは先ほど見た神社の前をとおり、住宅地の間の細い道をすすんで突き当りを左折するとさらに細い道になり、下り坂をおりて湧水が谷となっているところを巻き、直後に急な上り坂となった。坂を上り切ると県道513号、峯の薬師表参道口の近くに出た。
県道へ出る手前で先ほど渡ってきた三井大橋方向

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橋の向こうは太井方面の住宅地。
峯の薬師入口バス停付近から東南方向

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湖の向こうは中沢の住宅、城山ダム方面。遠く相模原市街地や横浜、三浦丘陵まで望めた。
県道はしばらく緩い上り坂で、峠的な場所にトンネルがある。
トンネル手前で三井大橋方向を望む

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トンネルを抜けると県道は下り坂がずっと続く。湖のへりに沿って坂道を下りていくと中沢という場所に出てくる。途中、関東ふれあいの道の城山から高尾山へ抜けるルートと合流したようだ。
中沢の道沿いにはこんなものが立てられていた。

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地理院地図にも義、智、信、忠、孝の5つがのっていた。でもなぜ八犬伝なのに7つなんだろう?
そこからしばらく進むと津久井湖城山公園水の苑池

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向こう側の山が城山、公園との間に少しダムが見える。ここで少し休憩し、城山高校前を通過して城山ダムへ。
城山ダムの堤体

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間近で見ると大きいわ。ちなみに堤体の真ん中あたりに何本かの管が架かっているが、そのうちいちばん下にある太い管が青山沈殿池から城山隧道を通ってながれてきた水が通っているものとのこと。この水はこの先にある谷ケ原浄水場へ向かって流れていく。
ダムと先ほど通ってきた道のある方向

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ここから城山高校の裏側を通って谷ケ原浄水場方面へすすむ。
途中圏央道を通過した先から新小倉橋

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ちょっとだけ旧小倉橋も見える。あの近くにトロッコの看板(2)があるはず。
谷ケ原浄水場の手前に小さな古い水力発電所がある。
そこから出てくる送電鉄塔や設備がいい感じに枯れていたので

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発電所のところから国道413号線に出てそのまま進むと谷ケ原浄水場の前に出る。
谷ケ原浄水場の門

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水道局の沼本ダムや青山沈殿池からきた水がここの津久井分水池に集合し、横浜水道、川崎市水道、県営水道などいくつにも分かれていく。そしてここで浄水した水は相模原市厚木市愛川町に供給されるそうだ。水のハブだねここ。
横浜水道については現在2本の送水路があっていずれも川井浄水場横浜市旭区)に水が送られている。このうち道志川系統と呼ばれる送水路のうえが「水道みち」になっている。
浄水場からは国道を久保沢交差点まですすみ、右折して県道508号に入り、すぐにまた右折して県道510号に入る。このあたり一種の迷路になっている。また、歩道は車道と異なった場所に設置されているのでうまく使えばバイパスできそうなのだが、うまく使いこなせなかった。
県道510号に入って坂を下って旧小倉橋のほうへすすむと途中に

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ここに架かっているコンクリートのなかを横浜水道の現役の送水管が通っている。これが2本の導水路の道志川系統と呼ばれるほうで、この先水道みちの下を通って川井浄水場へ至るやつがこんなところに顔を出している。この先はこれに沿って歩いていくことになる。
新小倉橋直下にあった水道トンネルの入口

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こちらはかつて使用されていた水道用のトンネルの跡。いまはコンクリートで入口が塞がれている。「久保沢隧道」と読めたが、さきほどの横浜水道のトンネルと同じ名前だ。こちらは相模原市内の灌漑用水を送っていたものの跡らしい。数年前に設備が撤去されたようだ。
さらに下ったところに通っていた、新しめの送水管。

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こちらは横浜水道の相模湖系統の現在の送水管のようだ。この管は水道みちとは違う流路で川井浄水場へつながっている。
話がそれるが、この県道は小倉橋の向こうで何やらの土木工事をやっているようで、いつ通っても大型ダンプが頻繁に通る。坂道のため上っていくやつはガスを吹かすし、見通しが悪いせいかあのどでかい音のエアホーンを鳴らすしで、ここを歩く人は地獄だと思う。

県道がヘアピンカーブになって、そのまま行くと小倉橋となる場所に直進する道路(?奥は未舗装だ)がある。ここに入っていくと50mくらいで次の「トロッコ」の歴史看板がある。
「トロッコ」の歴史看板(2)大島(1)

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ちょっときちゃない。三井取入所から6kmとなっている。
水道局のガイドによれば、ここから次の看板(3)までは入ってきた未舗装の道(ハイキング道とされている)をそのまま進めばよいような設定になっているのだが
入ってきた未舗装の道はこちら

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看板の先はこのとおり

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草ぼうぼうで踏み分けどころか人が通った形跡がない。冬はどうか知らないが、これは進めない。来た道を引き返すが久保沢の国道まで戻るのは癪なので、と地図をみると新小倉橋のさらに上の道路に抜ける細い道がある。迷わずこれを選択し、一気に急坂を登る。
坂の登りはじめでみた新小倉橋

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登り尽くしたところで一般道へ出た。上ってきた道を振り返って

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新小倉橋より高いところへ出た。

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実はここまで、いわゆる「水道みち」を歩いていない。水道が道路の下を通っていないし、水道みちという設定もされていない。このあたりも水道みちの設定はないが、ここの真下には相模湖系統の送水管が通っているしこの先は送水管に沿って歩ける。こちらはこの先水道みちとなる道志川系統のものではないがここからその上を歩けるところはなるべく歩く。畑などになっているところはなるべく近くを歩いて神奈中バスの上大島バス停を目指した。水道管がどこを通っているかは地理院地図をみるとわかる。
ちなみに道志川系統の送水管は県道48号に沿っていて、2つの送水管が上大島バス停付近で交差している。
上大島バス停

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このバス停の直下に2つの管が通っているようだ。実感ないけど。
ここからバスに乗り、橋本駅へ出た。本日の純粋な歩行距離は17.7kmだった。
その2へ続く。次はずーっと水道みちを歩く。

 

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