台地上の湧水が池をつくり、その池の水が川となる。東京、武蔵野台地にはそんな川がいくつかある。井の頭池から流れ出す神田川。善福寺池から流れ出す善福寺川。三宝寺池と富士見池の水をあわせて流れ下る石神井川。そして妙正寺池から流れ出す妙正寺川。
神田川、善福寺川、石神井川については、すでに流れに沿ってあらかた歩いていたのに、妙正寺川はまだだった。ひとつだけ残してしまっていた感じがしていたが、ようやく歩いてくることができたので、ここにノートにまとめてみる。
そういえば、以前にも似たタイトルのノートを書いている。
妙正寺川も善福寺川同様、源は池で、そこから流れ出す水は神田川に合流する。善福寺川に比べると、源流の池の大きさは小さく、川の長さは短いが、ともに源は杉並区内にあって、距離は2,3kmしか離れていない。妙正寺川の延長は9.7km、現在の神田川との合流点は、新宿区下落合1丁目の辰巳橋付近で、ここで神田川高田馬場分水路に合流するが、この先暗渠となり、豊島区高田3丁目の高戸橋付近で再び開渠となって神田川の本流と合流する。つまり神田川のバイパス路(分水路)と先に合流し、さらに下流で本線(本流)と合流している。
行程
神田川の本流と合流している地点から歩くこととして、豊島区高田3丁目の高戸橋をまず目指す。
スタートは高田馬場駅
駅前から路地を2つ3つ曲がって神田川沿いに出て下流方向に歩き、高戸橋へ向かう。明治通りと新目白通りの交差点名にもなっている高戸橋へは駅から歩いて7,8分くらい、明治通りの学習院下方向に行ったところにある橋がそれ。この橋のうえから合流点がよく見える。
いちばん左が神田川の本流、まん中の暗渠出口が神田川高田馬場分水路、右側の暗渠出口が妙正寺川ということになる。ただし、下落合で分水路と妙正寺川の水はいったん合流し、そこから分水路と妙正寺川の2本のトンネル(暗渠)に再び分けられて流れてくるので、名前を便宜的に分けているだけなのである。さらに余計なことを書くと、高田馬場分水路に神田川の水が流れてくるのは雨が降って流量の多いときだけで、普段は落合水再生センターの下水処理水しか下落合では合流していないとか。まあ細かいことはあまり気にしない。
高田馬場分水路の暗渠出口真上から撮ったもの
出っ張りの向こうが妙正寺川、こちら右側が神田川高田馬場分水路から出てきた水の流れになる。
ここから後ろ側、川の上流方向へ歩き出すが、しばらく暗渠となっているので、その上の新目白通りを落合方向へ向かう。
JR山手線、埼京線の高架をくぐると、西武新宿線の線路が隣りに寄ってきて、新目白通りとの間は広い歩道になる。
この幅の広い歩道は、高田馬場分水路と妙正寺川が暗渠となるところからはじまっているので、おそらくこの下を川が流れていると思われる。
下落合の暗渠の呑口地点
手前で合流して1本の川になっているが、入口が2つあって中は「2車線」。
神田川高田馬場分水路と妙正寺川の合流点
とても見にくい写真になってしまったが、正面向こうの暗渠から出てくるのが分水路の水、手前右から妙正寺川が流れてくる。ここで一旦合流してまた二手に分かれる。分水路を流れる水については先ほど書いたとおり。
妙正寺川側から下流方向暗渠の入口をみる。
暗渠や神田川高田馬場分水路ができる以前、この付近で妙正寺川はやや右に曲がり、右側の西武新宿線の線路を越えて、その奥方向に流れている神田川と合流していた。高田馬場分水路の完成が1982年(昭和57年)とのことなので、それ以前の話。流路変更や分水路の設置などは、大雨時にこのあたりでの水害がたびたび発生していたためである。地形的にこのあたりは窪地になっていて、水害が発生しやすい。
下落合の合流点より上流の妙正寺川は、ほぼ水の流れを見ながら歩くことができる。
昭和橋を望む(新宿区中落合1丁目付近)
下流は住宅の密集地帯を流れる。さすがにこの住宅の密度で、たびたび水害が発生していてはたまらない。
妙正寺川落合調整池
右側の落合公園の下に大きな調整池。大雨で水量が増したときに水が流れ込むようにして、一時的にプールのように水をためられるようにした施設がある。ここのほかにも数か所、同じような調整池が設けられているのを見ることができた。このほかにも環七通りの下に大きな管を通し、大雨時など神田川、善福寺川、妙正寺川の間で流れる川の水量調整ができるような設備もある。これらの設備、川の流路変更などとあわせて水害対策に大きな効果が出ているとのこと。
中野区に入る。中野区上高田5丁目付近から
向こう、目白大学の建物が見えるあたりは落合崖線と呼ばれる崖の線がずっと続いていて、その崖にかかる、名前のついたたくさんの坂道がある。(大学の建物があるところは新宿区らしい。)
四村橋のたもとから
正面から右側は哲学堂公園。その入口近くにあたる。それにしてもどこもかしこもフェンスだらけ、不要とは言わないけど。
哲学堂公園内にて
しかしこの公園、いちいちその設備施設やあれこれに小難しい名前がつけてある。たとえば入口の門柱、右側が「哲學關(てつがくかん)」、左側が「眞理界(しんりかい)」とか。ふつう門の両側にそれぞれ違う名前をつけるか?。でも写真に写っている池は「菖蒲池」。
公園内の散策路、左側に妙正寺川の流れ
哲学堂公園を過ぎると、すぐにまた江古田公園という小ぶりの公園がある。そこで妙正寺川に江古田川が合流している。
江古田川合流地点
左奥から手前に向かって妙正寺川、右奥から流れてきているのが江古田川。江古田川は何やらあちこちオレンジ色に染まっている。水の淀んだような場所でこんなオレンジ色を見ることはある。真相は不明だが、川の水の富栄養化が原因で、赤い色素を体内にもつ微生物が発生した、あるいは鉄酸化細菌が発生して周囲の鉄分を酸化させ、錆のようなものを発生させた、といったところらしい。
妙正寺川は江古田川の合流点の上流で蛇行する。しばらく上流に向かっては南向きに歩く。この川は流れの蛇行がわりかしよく残されていると思う。多くの都市河川では、河川改修の際に蛇行を矯正されて流路は極力直線化されるが、妙正寺川は大きな蛇行、小さな蛇行ともによく残されたままで改修工事が行われている。
たとえばこんなかんじで川が曲がったままにされているところはあちこちにある。(これは中野区新井4丁目付近)
江古田川の合流から上流へ行くと、明らかに流量が少なくなり、川のつくりも、真ん中に溝が切られた小河川の構造になってくる。
ここより上流がしばらく工事中で、川の上にずっと蓋がされていた。工事区間を過ぎた上流側は、すぐに鷺ノ宮駅近くだった。
鷺ノ宮の街中を流れる川
中野区立鷺宮体育館近く
もう少し先、杉並区との境界付近
このあたり、水の流れはあるものの微かでしかない。冬場というせいもあるかと思う。
杉並区に入って、早稲田通りなどを横断すると、まもなく妙正寺公園に近づく。
橋は落合橋、その向こうは妙正寺公園
落合橋に近づいて
正面奥から流れ出しているのが、公園内の妙正寺池からの水。左から流れ込んでいる水があるが、こちらの詳細は不明。ごく小さな水の流れが付近にあるようだ。
妙正寺公園に入ると奥に、丸い形の妙正寺池がある。
別の角度から
それほど大きなというより、小さな池である。しかしこの池からの水が川になるのだから、水量は豊富だったのだろう。池をつくったのは付近の湧水。現在は武蔵野台地のほかの池同様、湧き出す水の量が格段に少なくなってしまい、井戸を掘ってその水を充当しているそうだ。
池のなかに水が湧きだしているように見えるところがあったのだが、これは天然の湧水ではないようだ。
神田川との合流点から、とりあえず妙正寺川の源流に到着した。
池の周りをぐるりとまわって、本日はおしまい。杉並の住宅街を歩いて、西武新宿線の下井草駅に出た。
川の長さがさほどではなかったこともあり、駅とアクセスポイントの連絡を含めても、この日の歩行距離は14.2km。