本郷の坂道5回目は『菊坂』です。本郷のディープな界隈への出入口といったところでしょうか⁇ 今回は坂道とそこに残る古い建物なども見ていきます。
◆菊坂〈きくざか〉
本郷通り(国道17号、中山道)本郷3丁目交差点から北へ50mほど、左(西)へ入る道が菊坂です。
菊坂入口から先を見て
ここが菊坂の坂上ということになります。この坂はごく緩やかで、場所によっては傾斜がまったく無いといっていいところもあります。また坂長は630mととても長いです。
坂上から100mほど入ってふり返り
坂上に近いところは少し傾斜があります。
通りに沿っては個人商店やオフィスと住宅が混在して立ち並んでいます。人や車の通行はそれほど多くありません。
坂上付近は隣接する本郷通り界隈の影響が強く現代風に建て替えられた建物が多いですが、下るにつれて時代を遡るかのようで古い建物も散見されます。
商店の多い一角
このあたりはほぼ平坦です。商店街は昭和風?
その先で再び坂上方向をふり返り
菊坂の中間あたり、長泉寺の入口近くに菊坂の坂名標識が立っています。
奥に門が見える長泉寺入口付近
手前植え込みに埋もれかかって
菊坂(きくざか) 本郷四丁目と五丁目の間
「此辺一円に菊畑有之、菊花を作り候者多住居仕候に付、同所の坂を菊坂と唱、坂上の方菊坂台町、坂下の方菊坂町と唱候由」(『御府内備考』)とあることから、坂名の由来は明確である。
今は、本郷通りの文京センターの西横から、旧田町、西片一丁目の台地の下までの長い坂を菊坂といっている。
また、その坂名から樋口一葉が思い出される。一葉が父の死後、母と妹の三人家族の戸主として、菊坂下通りに移り住んだのは、明治23年(1890)であった。今も一葉が使った掘抜き井戸が残っている。
寝ざめせしよはの枕に音たてて なみだもよほす初時雨かな 樋口夏子(一葉)
文京区教育委員会 平成11年3月
かつてこの界隈には多くの著名な文人の住居や下宿もありました。
菊坂に並行して南側一段低いところを通る下通り(下道)という細い道の付近には樋口一葉住居のほか宮沢賢治の下宿もあり、長泉寺に隣接した場所にあった赤心館という下宿には一時期石川啄木がいたそうです。
菊坂通りと下道の段差
2つの道が並行しています。段差は場所によって多少差があるものの家の1階分程度です。
菊坂と下道は地形的に細長い谷筋に沿って通っています。谷の底地に下道、少し高い位置に菊坂となっています。
この谷は現在の東京大学構内からの湧水がつくったといわれます。この流れの正式名称はなく、いまは暗渠の痕跡がごく一部に残るだけになってます。(いくつかの支流が合流した先で『東大下水』と呼ばれるのですが、読み方は《ひがし・おおげすい》で東大とは無関係…話逸れました)
坂名標識の立つ坂の半ばからさらに下ると通り沿いに古い家がいくつか残っています。
下道とを結ぶ階段の脇、木造3階建ての民家が残ります。
菊坂通りから
下道から見上げる形で
また50mほど先
改装されてはいますが、昔の佇まいが残る家が2棟並んでいます。
道路右側看板の出ている店の隣りに旧伊勢屋質店の建物があります。
旧伊勢屋質店
左側蔵の方から
解説板が立ってます。
一葉ゆかりの伊勢屋質店 (本郷5-9-4)
万延元年(1860)、この地で創業し、昭和57年に廃業した。樋口一葉(1872~96)と大へん縁の深い質店であった。
一葉の作品によると、一葉が明治23年、近くの旧菊坂町(現本郷4丁目)の貸家に母と妹と移り住んでから、度々この伊勢屋の通い、苦しい家計をやりくりした。明治26年、下谷竜泉寺町に移ってからも、終焉の地(現西片1-17-8)にもどってからも伊勢屋との縁は続いた。
一葉が、24歳の若さで亡くなった時、伊勢屋の主人が香典を持って弔ったことは、一葉とのつながりの深さを物語る。店の部分は、明治40年に改築した。土蔵は、外壁を関東大震災後ぬり直したが、内部は往時のままである。
~ 一葉の明治26年5月2日の日記から ~
此月も伊せ屋かもとにはしらねば事たらず、小袖四つ、
羽織二つ、一風呂敷につゝみて、母君と我と持ちゆかんとす。
蔵のうちにはるかくれ行ころもかへ
東京都文京区教育委員会 昭和63年3月
現在は文京区指定有形文化財に指定され、跡見学園が取得して保存を行っているそうです。
伊勢屋質店の前あたりから再び坂道の傾斜が出てきます。
坂下方向
下り坂っぽくなり、先の信号でつきあたるところが菊坂下交差点、そこが文字通り坂下です。
菊坂下交差点ちょっと手前
横切る道は言問通り(の延長上の道路)。左へ少し行くと白山通り西片交差点に出ます。
菊坂下交差点からふり返った絵を撮ってなかったようで、とりあえず菊坂はここまでです。
先ほども記しましたが、菊坂は長い谷筋に沿ってのびています。この谷に周辺の本郷台地上から下りてくる何本もの坂道があって菊坂と繋がっています。
このあとはそれらの坂道を順にたどっていくことにします。
本郷坂道地図 今回菊坂は13
前回分